副原料はビールらしくないのか?純粋令とクラフトビール文化から考える【B-12-8】

ドイツ純粋令とクラフトビールの多様性を対比するイメージ

副原料シリーズでは、米、コーン、砂糖、果物、スパイス、小麦、オーツなど、さまざまな副原料を見てきました。

その中で、こんな違和感を持つ人もいるかもしれません。

「そんなに何でも入れて、もうビールではないのでは?」
「麦芽・ホップ・水だけで造るのが本物では?」
「副原料入りは邪道なのでは?」

こうした感覚の背景には、単なる好みだけでなく、歴史や文化があります。

特に語られることが多いのが、ドイツの純粋令(Reinheitsgebot)です。

一方で、現代のクラフトビール文化は、自由な発想や多様な原料使いも魅力とされています。

つまり、

・制限する文化
・広げる文化

この2つの価値観が、ビールの世界には同時に存在しています。

本記事では、副原料はビールらしくないのかという問いを、純粋令とクラフトビール文化の両面から整理していきます。

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ドイツ純粋令とは何か?

成立の背景

ドイツ純粋令として知られるものは、1516年にバイエルンで定められた規則が有名です。

当時の目的は、現代的な意味で「味にうるさい職人ルール」だけではありません。

背景には、

・粗悪な原料や危険な添加物を避ける
・価格や流通を安定させる
・小麦やライ麦をパン用に確保する
・地域の醸造ルールを整える

といった事情がありました。

つまり、品質・経済・社会事情が重なった制度でした。

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何を規定しているのか

当初の純粋令では、ビール原料として主に

・大麦
・ホップ
・水

が定められました。

酵母は当時まだ微生物として理解されていなかったため、明文化されていませんでしたが、後に重要原料として認識されます。

現代では「麦芽・ホップ・水・酵母」が純粋令的なイメージとして語られることが多いです。

ここで重要なのは、純粋令は“ビールの唯一絶対の本質”というより、歴史的な制度であるという点です。

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副原料との対比

なぜ制限されたのか

現代の感覚では、「なぜ果物やスパイスを禁止するのか」と思うかもしれません。

しかし当時は、

・安全性が不明な材料もあった
・品質のばらつきが大きかった
・穀物資源の優先順位が必要だった

といった事情がありました。

つまり、自由を抑えることが、秩序や品質につながる時代でもありました。

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品質との関係

純粋令は、「余計なものを入れない=品質を守る」という思想とも結びつきました。

その結果、ドイツビールには、

・整った味わい
・安定感
・原料の美しさを活かす文化

が育まれていきます。

一方で、品質とは「制限すること」だけで生まれるわけでもありません。

現代では、優れた技術と衛生管理のもとで、多様な副原料を使いながら高品質なビールも数多く造られています。

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日本と海外の考え方の違い

日本のビール文化

日本の大手ビール文化は、飲みやすさ、安定品質、食事との相性、大量供給などを重視して発展してきました。

その中で、米やコーンなどの副原料も使われてきました。

つまり、日本では「副原料=特殊」ではなく、日常的なビール文化の一部でもあります。

また近年は、クラフトビールの広がりとともに、果物や和素材を使った表現も増えています。

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海外クラフトビール文化

海外、特にアメリカのクラフトビール文化では、自由な発想が大きな価値になってきました。

例えば、

・強烈なホップ香
・果物の活用
・スパイスやコーヒーの使用
・樽熟成

などです。

ここでは、「何を入れてはいけないか」より、

「どう面白い体験を作るか」

が重視される傾向があります。

もちろん、すべての海外文化が同じではありませんが、自由度の高い表現文化として大きな影響を与えました。

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ビールとは何か?

定義と自由

ビールとは何か。

この問いには、ひとつの答えしかないわけではありません。

法律上の定義もあります。
伝統的な定義もあります。
飲み手の感覚的な定義もあります。

例えば、

・麦芽を発酵させた酒であること
・ホップの香りや苦味があること
・飲んだときにビールらしい体験があること

など、人によって重視点は変わります。

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文化としての違い

ドイツ的な「整える文化」も、クラフトビール的な「広げる文化」も、どちらもビール文化です。

片方だけが正しく、もう片方が間違いという単純な話ではありません。

・素材を絞って磨く面白さ
・素材を増やして広げる面白さ

この両方があるから、ビールの世界は豊かになっています。

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実際に飲んだときの感じ方

この視点を持って飲むと、副原料入りビールの見え方も変わってきます。

例えば、

・柚子の香りが立つビール
・コーヒーの余韻があるビール
・小麦でやわらかい口当たりのビール

こうしたものに出会ったとき、

「これはビールではない」と切ることもできますし、
「ビール表現の広がり」と見ることもできます。

また逆に、シンプルなラガーを飲んだときには、原料を絞った美しさに気づくこともあります。

色々なビールを比較することで、それぞれの価値が見えてきます。

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ビール好きとして思うこと

「ビールとは何なのか?」

クラフトビールを飲む前は、考えもしなかったことであり、「ビールはビール」でしかありませんでした。

クラフトビールを飲み、さまざまなビールに触れながら、ビールそのものについて少しずつ詳しくなる中で、僕の中で、ビールとクラフトビールを定義したことがありました。

クラフトビール:
クラフトビールとは、地域性や造り手の思想・個性を反映し、多様な原料や製法を駆使して造られるビールである。
一期一会の味わいやストーリー性を楽しむ、新しいビール文化の形である。

ビール:
ビールとは、麦芽を主原料とし、酵母による発酵とホップによる香味設計を経て生まれる、炭酸を含む「麦の醸造酒」である。
人類の歴史とともに、儀式的な役割から社交的な媒介へ、さらに個人の嗜好を満たす存在へと進化してきた。

(補足)
・人間が飲めるアルコール(=エタノール)は、基本すべて「発酵」によって作られる。
・ビール、ワイン、日本酒は儀式的な役割・社交的な役割を担っている
・ホップは「防腐作用を持つ保存料」「苦味・香りを付与する香味料」「甘さを引き締める設計ツール」として機能する。
・甘さは中世までは“喜ばれる快楽”だったが、現代では“飲み心地や爽快感”が重視され、苦味の役割が浮上
・ビールの炭酸は酵母が生み出した CO2(二酸化炭素)を溶かした状態
・ビールで使う麦は歴史的にも大麦、小麦が主流
・副原料は古代から利用され、ホップ登場以前に、ビールはあらゆる植物やスパイスを副原料として使っていた。
・ビール純粋令(麦芽・水・ホップ・酵母のみを「正当なビール」)=地域限定・時代限定の“イレギュラー”な縛り
・ビールの種類
①上面発酵(エール酵母):IPA, エール系全般
 →古代メソポタミア~中世ヨーロッパが主流(起源)。現代の世界流通量は約10~15%(欧米やクラフト市場中心)
  フルーティで香り豊か、温暖な気候と親和性が高い
②下面発酵(ラガー酵母):ラガー、ピルスナー系
 →15世紀末から16世紀:ドイツ・バイエルン地方で誕生。19世紀に冷蔵技術とともに拡大
  現代の世界流通量は約80~85%(世界全体の大半)
  ピルスナーなどのすっきり系。近代工業化に最適で大量生産向き
③自然発酵(野生酵母+乳酸菌など):ランビック、グーズ系
 →最初のビール。現代の世界流通量は1%未満。伝統的製法。香りと酸味が独特で好みが分かれる。熟成期間が長く希少
・日本のビール変遷
 日本のビール文化は、最初はエールだったが、すぐにラガーが主流になった。
 - 1853年(ペリー来航)以降、欧米との交流が増える中でビールが伝わる。
 - 1869年:横浜に「スプリングバレー・ブルワリー」(現・キリンの起源)が創業。
 - 1876年:札幌開拓使麦酒醸造所が誕生(現:サッポロビールの起源)
  → 気候的にもラガーは日本の夏に合い、すっきり・キレが好まれた
 - 明治中期以降、各地のビール会社も「ラガー=標準」へと移行
 - 1994年:酒税法改正により小規模醸造が可能に
 - 地ビール・クラフトブームにより、エール系(ペールエール、IPA、スタウトなど)が再登場
  → ただし、今でも日本全体の流通量ではラガーが圧倒的多数
・ビールは現代において“嗜好品”としての側面を強めており、以下のような複数の嗜好にまたがって楽しまれている:
 味わう嗜好:香り・味・温度・スタイルの探究
 習慣的嗜好:「毎日飲んでるから」といった慣れ・生活の一部として
 社交的嗜好:飲みの場が好き、誰かと一緒に飲みたいという欲求
 酔うための嗜好:気分転換・ストレス解消など、意図的に酩酊を求める動機

また、飲み進める中で、定義のアップデートができると良いかなと思っています。

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まとめ

副原料はビールらしくない、と単純には言い切れません。

純粋令には、歴史的背景と品質思想がありました。
一方で、現代クラフトビールには、自由な表現文化があります。

どちらもビール文化の一部です。

制限して磨く面白さ。
広げて生み出す面白さ。

その両方を知ることで、ビールの見え方はさらに深くなります。

副原料シリーズはここまでですが、次は実際の銘柄やスタイルを飲み比べながら、「理論がどう体験につながるか」を見ていくのも面白い入口です。

▶ 麦芽100%ビールとは何か?副原料入りビールとの違いと意味を整理【B-12-9】

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関連リンク

■ ビール・クラフトビールの基礎知識

 ▶ ビール・クラフトビール基礎記事一覧
 ▶ ビールの副原料を読み解く ― 種類・目的・役割まで全体像を整理【B-12-0】

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