この副原料シリーズでは、ビールの副原料を5つの役割に分類して整理してきました。
・分類① ボディ・飲みやすさ調整系
・分類② 発酵コントロール系
・分類③ 風味・キャラクター付与系
・分類④ 見た目・質感調整系
・分類⑤ 製造・品質・安定性補助系
ここまで読むと、副原料はきれいに分類できるようにも見えます。
しかし、実際のビール造りでは、ひとつの副原料がひとつの役割だけを持つとは限りません。
例えば、
「オーツは口当たりだけなのか?」
「果物は香りだけなのか?」
「砂糖は度数を上げるだけなのか?」
こうした疑問が出てきます。
副原料シリーズでは、理解しやすくするために分類していますが、現実の醸造はもっと立体的です。
本記事では、副原料が複数の働きを持つ理由と、設計としてどう使われるのかを整理していきます。
────────────────
副原料はなぜ分類をまたぐのか?
複数の役割を持つ理由
原料は、ひとつの成分だけでできているわけではありません。
例えば穀物には、
・でんぷん
・タンパク質
・香味成分
・食物繊維
など、さまざまな要素があります。
果物にも、
・糖分
・酸味成分
・香り成分
・色素
などがあります。
そのため、原料を加えると、ひとつの効果だけでなく、複数の変化が同時に起こることがあります。
つまり、分類は「主な役割」であって、「唯一の役割」ではありません。
────────────────
具体例で見る副原料の多面性
オーツ
オーツ麦は、このシリーズでは見た目・質感調整系として扱ってきました。
たしかに、オーツは、
・なめらかな口当たり
・やわらかい舌触り
・とろみ感
などに関わることがあります。
一方で、それだけではありません。
オーツを使うことで、濁りのある外観につながることもありますし、ホップの苦味がやわらかく感じられることもあります。
つまり、オーツは、
・質感調整
・見た目への影響
・全体バランスへの影響
を同時に持つことがあります。
────────────────
砂糖
砂糖は、発酵コントロール系副原料として紹介しました。
たしかに、酵母が利用しやすい糖分として、
・アルコール度数の調整
・発酵の進み方の調整
に関わります。
しかし、そこから生まれる結果として、
・甘さが残りにくい
・後味が切れやすい
・重たくなりすぎない
といった飲み口の変化にもつながります。
つまり砂糖は、発酵だけでなく、ボディ設計にも関わる場合があります。
────────────────
フルーツ
フルーツは、風味付与系副原料としてわかりやすい例です。
例えば、
・柑橘の香り
・ベリー系の果実感
・トロピカルな印象
などを与えることがあります。
ただし、果物は香りだけではありません。
糖分によって発酵へ影響する場合もありますし、酸味によって全体の印象が引き締まることもあります。
また、色合いに影響することもあります。
つまり、フルーツは、
・香り
・味わい
・発酵
・見た目
まで関わる可能性があります。
────────────────
設計としての副原料とは何か?
目的の組み合わせ
ビール造りでは、「この原料を入れたら、この効果だけ出る」という単純な話ではありません。
むしろ、複数の目的を同時に満たすために、副原料が使われることがあります。
例えば、
・オーツで口当たりをやわらかくしつつ、濁りも出す
・砂糖で度数を上げつつ、重たさを抑える
・柑橘で香りを足しつつ、爽やかな印象にする
といった形です。
つまり、副原料は単機能の部品ではなく、多機能な設計素材とも言えます。
────────────────
バランスの考え方
副原料は、多ければ良いというものでもありません。
香りを足しすぎればビール全体との一体感が崩れることがあります。
糖類を使いすぎれば軽すぎる印象になることもあります。
オーツを増やしすぎれば重たく感じることもあります。
そのため重要なのは、
・何を足すか
・どれだけ足すか
・何と組み合わせるか
というバランスです。
このあたりに、ブルワーごとの技術や個性が表れます。
────────────────
実際に飲んだときの感じ方
この視点を持つと、ビールを飲んだときの感じ方も変わってきます。
例えば、
・香りが華やかなのに飲み口は軽い
・濁っているのに重たすぎない
・度数が高いのにすっきりしている
こうした一見不思議なビールに出会ったとき、複数の副原料設計が背景にあるかもしれません。
また、「この素材が入っているからこういう味」と単純に決めつけにくいことにも気づきます。
ビールは、複数要素が重なってできている飲み物です。
────────────────
ビール好きとして思うこと
クラフトビールを飲み始めてから、「副原料」という言葉を意識するようになりました。
今回あらためて整理してみると、副原料には単一の目的だけではなく、複合的な役割があることを再認識しました。
どうしても、私たちは「この素材が入っているから、こういう味になりやすい」と、単純に考えてしまいがちです。
ですが、実際には原料そのものだけでなく、使う量、タイミング、他の原料との組み合わせなども含めて、全体の設計の中で味わいが決まっていきます。
また、飲みに行ってブルワーさんと話したときに、ときどき「〇〇を使ったから、こういう味になった」という話を聞くことがあります。
そこには設計意図がありつつも、実際にどのような味として現れるかは、飲んでみて初めてわかる部分もあります。
ブリューパブでそのビールを飲みながら、そうした答え合わせができるのも、クラフトビールの楽しみのひとつだと思っています。
────────────────
まとめ
副原料は、ひとつの役割だけを持つとは限りません。
オーツは質感だけでなく見た目にも影響し、砂糖は発酵だけでなく飲み口にも関わり、フルーツは香りだけでなく酸味や色にも影響することがあります。
そのため、分類は入口として有効ですが、実際のビール造りはもっと立体的です。
次の記事では、副原料入りビールはビールらしくないのか、純粋令やクラフトビール文化との関係から整理していきます。
▶ 副原料はビールらしくないのか?純粋令とクラフトビール文化から考える【B-12-8】
────────────────
関連リンク
■ ビール・クラフトビールの基礎知識
▶ ビール・クラフトビール基礎記事一覧
▶ ビールの副原料を読み解く ― 種類・目的・役割まで全体像を整理【B-12-0】
