これまでの記事では、ビールの苦味がどこから来るのかを整理してきました。
・ホップ由来の苦味
・モルトやアルコールによる苦味
・保存状態による変化
しかし、ここで一つの疑問が出てきます。
そもそも、人はどうやって「苦い」と感じているのでしょうか。
同じビールでも、
・苦く感じる人
・それほど苦く感じない人
がいるのはなぜなのか。
この記事では、「人の感じ方」に視点を移し、味覚の仕組みから苦味を整理していきます。
味覚とは何か
味覚とは、食べ物や飲み物の化学成分を舌や口の中で受け取り、それを脳で認識する感覚です。
単純に「舌で感じるもの」と思われがちですが、実際には
・舌
・鼻(香り)
・温度
・触感
など、複数の要素が組み合わさって「味」として認識されています。
ビールの場合も同様で、
・苦味
・香り(ホップのアロマ)
・炭酸の刺激
などが一体となって「味わい」として感じられています。
人間が感じる5つの味
人間が感じる味覚は、大きく5つに分類されます。
これらはそれぞれ異なる役割を持ち、単なる「味」ではなく、体に必要なものや危険を判断するための重要な感覚でもあります。
また、実際の食べ物や飲み物では、これらの味が単独で存在することは少なく、複数の味が組み合わさることで、複雑な味わいとして認識されています。
甘味(あまみ)
甘味は、主に糖分によって感じられます。
エネルギー源となる栄養を示す味であり、人間は本能的に好む傾向があります。
ビールにおいては、モルト由来の甘みとして感じられることがあります。
酸味(さんみ)
酸味は、有機酸などによって感じられます。
未熟さや腐敗のサインでもあるため、警戒を促す役割を持っています。
ビールでは、サワービールなどで特徴的に感じられる味です。
塩味(えんみ)
塩味は、ナトリウムなどのミネラルによって感じられます。
体に必要な成分であり、適量であれば味を引き締める役割もあります。
ビールでは強く感じることは少ないですが、水質やミネラルバランスに影響します。
苦味(にがみ)
苦味は、さまざまな化学物質によって感じられます。
特徴的なのは、「危険を知らせる味」であることです。
ビールにおいては、ホップやローストモルトなどによって感じられます。
旨味(うまみ)
旨味は、アミノ酸(グルタミン酸など)によって感じられます。
出汁や肉の味に代表される、満足感やコクを与える味です。
ビールでは、モルト由来のコクや深みに関係しています。
人はなぜ苦味を感じるのか
苦味受容体
人間の舌には、「苦味受容体」と呼ばれるセンサーがあります。
これは、苦味のもととなる物質を検知するための仕組みです。
特に「T2R受容体」と呼ばれる種類が知られており、複数のパターンで苦味を感知しています。
毒検知の仕組み
苦味は本来、
「毒の可能性があるものを避けるための感覚」
として進化してきました。
自然界では、有毒な植物や物質は苦いことが多いため、
・苦い=危険
という認識が人間には組み込まれています。
そのため、
・子どもは苦味を嫌う
・初めての苦味に抵抗を感じる
といった反応は、自然なものです。
辛さは味覚ではない
ここで少し補足です。
よく「辛い」という表現がありますが、実は辛さは味覚ではありません。
辛さは、唐辛子などに含まれるカプサイシンによって、
痛覚(刺激)として感じているものです。
つまり、
・苦味 → 味覚
・辛さ → 痛覚
という違いがあります。
このように、人間の「味の感じ方」は、複数の感覚が混ざってできています。
味覚はどのように感じているのか
舌
舌には「味蕾(みらい)」と呼ばれる組織があり、ここで味を感じ取ります。
味蕾の中にある受容体が、化学物質に反応することで、味の信号が生まれます。
脳
舌で受け取った信号は、神経を通じて脳に送られます。
そして脳がそれを
・「苦い」
・「美味しい」
といった形で認識します。
つまり、
味は舌だけでなく、最終的には脳で決まっている
ということです。
ビールの苦味と味覚
ここまでを踏まえると、ビールの苦味についても見え方が変わります。
例えば、
・ホップの苦味(イソα酸)
・ローストの苦味
・ポリフェノールの渋み
といった要素は、
・舌で受け取られ
・脳で「苦い」と認識される
ことで成立しています。
さらに、
・香り
・炭酸
・温度
なども加わることで、「苦味の印象」が変化します。
そのため、
・同じビールでも人によって感じ方が違う
・同じ人でも体調や経験で感じ方が変わる
といったことが起こります。
(参考)味覚障害について
ここまで見てきたように、味覚は「舌だけ」で感じているものではありません。
そのため、味覚に異常が起きる場合も、原因は一つではありません。
味覚障害には、主に次のような要因があります。
・舌の味覚受容体の異常
・神経の伝達異常
・脳での認識の問題
例えば、
・味が薄く感じる(味覚低下)
・何を食べても苦く感じる(異味症)
・味を感じにくい(味覚鈍麻)
といった症状があります。
また、加齢や体調、ストレス、栄養状態(特に亜鉛不足)なども影響することが知られています。
こうした要因によって、同じビールを飲んでも、
苦く感じたり、あまり苦く感じなかったりする
といった違いが生まれることもあります。
つまり、味覚は非常に繊細で、
身体の状態や環境によって変化する感覚
だと言えます。
ビール好きとして思うこと
「苦いビールが好きな人」もいれば、「苦いビールが得意ではない人」もいます。
僕自身は、正直なところ、苦いビールはあまり得意ではありません。
こうした違いを考えるとき、「苦いビールの好き嫌い(個人差)」として捉えがちかもしれません。
ただ、その個人差の前に、
・そもそも人はどうやって苦味を感じているのか
・苦味以外に、どのような味覚があるのか
・なぜ人は苦味を感じる必要があるのか
・苦味にはどんな意味があるのか
といった、“もっと土台の部分”があるように思いました。
これらを整理しないまま「苦い・苦くない」とだけ考えても、どこか腑に落ちないままだったのだと思います。
だからこそ今回、ビールの話から少し離れてでも、「苦味とは何か」を一度整理してみようと思いました。
土台の部分を整えたうえで、
「なぜ人によって苦味の感じ方が違うのか」
というところを見ていくと、より納得感のある理解につながる気がしています。
こうした基礎的な部分から整理していくことも、ビールの楽しみ方の一つなのかもしれません。
まとめ
人は、舌の受容体と脳の働きによって苦味を感じています。
・苦味は本来、危険を知らせるための感覚
・しかし経験や慣れによって印象は変わる
・香りや炭酸なども含めて総合的に「苦さ」として認識される
つまり、ビールの苦味は
・成分だけで決まるものではなく
・人間側の感じ方によっても変わる
ということです。
次の記事では、
「なぜ人によって苦味の感じ方が違うのか」
というテーマで、個人差にフォーカスしていきます。
ビールの苦味を、さらに一歩深く理解していきましょう。
▶ 人類はなぜ苦味を受け入れてきたのか?毒・文化・嗜好から読み解く苦味の意味
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関連リンク
■ ビールの基本・味わい・歴史・市場までを体系的に整理した一覧記事
▶ ビール・クラフトビール基礎記事一覧
■ 日本のビール市場を知る
▶ ビールの苦味を深掘りする|ホップ・味覚・文化まで全体像を整理
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