ビールを飲んだとき、最初に感じる印象の一つが「苦味」です。
「このビールは苦い」
「これは飲みやすい」
そうした感想の多くは、実はこの“苦味”の感じ方によって決まっています。
クラフトビールの世界では、この苦味を数値で表した「IBU」という指標も存在し、ビール選びの目安として使われることもあります。
ただし、ここで一つの疑問が生まれます。
同じIBUのビールでも、
「苦く感じるもの」と「それほど苦く感じないもの」があるのはなぜでしょうか。
さらに言えば、「苦さ」と一言で言っても、その中身は一つではありません。
舌に鋭く残る苦さもあれば、後からじわっと続く苦さ、香ばしさと一体になった苦さなど、体感としての“苦味”にはいくつかの種類があるように思います。
こうした違いが、同じIBUのビールでも印象が変わる理由の一つになっています。
この記事では、ビールの苦味を
・IBUという数値
・原料としてのホップ
・どのような種類の苦さなのか
・そして人間の味覚
という複数の視点から整理していきます。
そして最終的には、
「苦味とはそもそも何なのか?」
というところまで踏み込んでいきます。
IBUとは何か
IBUの意味
IBUとは「International Bitterness Units」の略で、ビールの苦味を表す国際的な単位です。
簡単に言えば、
ビールの中にどれくらい苦味成分が含まれているかを数値化したもの
です。
一般的な目安としては、
・ラガービール:10〜20 IBU
・ペールエール:20〜40 IBU
・IPA:40〜80 IBU以上
といったように、スタイルごとにある程度の傾向があります。
なぜIBUが使われるのか
ビールは感覚的な飲み物です。
「苦い」「軽い」「重い」といった表現は、人によって感じ方が変わります。
そこで、ある程度の共通指標としてIBUが使われています。
つまりIBUは、
味の“感じ方”ではなく、“含まれている成分量”を示したもの
です。
ここがとても重要なポイントです。
IBUはどのように決まるのか
ホップの苦味成分
ビールの苦味の主な原因は、ホップに含まれる「α酸(アルファ酸)」です。
このα酸が、ビールの製造過程で加熱されることで「イソα酸」に変化します。
このイソα酸こそが、私たちが感じる苦味の正体です。
つまり、
ホップ → α酸 → 加熱 → イソα酸 → 苦味
という流れになっています。
煮沸による変化
ホップは、ビールを煮沸する工程で投入されます。
このときの
・投入タイミング
・煮沸時間
によって、苦味の出方が変わります。
一般的には、
・早い段階で入れる → 苦味が強くなる
・後半に入れる → 香りが強くなる
という傾向があります。
また、IBUはこのイソα酸の量を化学的に測定して算出されます。
IBUが高くても苦く感じない理由
ここが、ビールの面白いところです。
IBUが高い=苦い、とは限りません。
甘みとのバランス
ビールにはモルト由来の甘みがあります。
この甘みが強いと、苦味が和らいで感じられます。
例えば、
・IBU60のIPA
・IBU60の濃厚なスタウト
では、同じ数値でも体感は大きく変わります。
つまり、
苦味は単独ではなく、バランスで感じるもの
です。
香りとの関係
ホップの香りも、苦味の印象に影響します。
フルーティーな香りが強いビールは、
実際には苦味があっても
「飲みやすい」「軽い」と感じることがあります。
逆に、香りが穏やかでドライなビールは、苦味が強く感じられやすくなります。
苦味の種類
「苦い」と感じるとき、その中身は一つではありません。
例えばビールの苦味には、
・舌に鋭く残る苦さ(シャープな苦味)
・余韻として続く苦さ(アフタービター)
・焙煎由来の香ばしさと一体になった苦さ(ローストビター)
・ドライさとして感じる苦さ(キレ・渇き)
・草っぽさ・青さとして感じる苦さ(グラッシー、ハーバル)
といったように、いくつかの質感の違いがあります。
同じIBUのビールでも印象が大きく変わるのは、この「苦味の種類」の違いによるところも大きいと考えられます。
このあたりは、ホップだけでなくモルトやアルコール、さらには人の味覚とも関係してきます。
ビールの苦味はIBUだけでは説明できない
原料の影響
ビールの苦味は、ホップだけではありません。
例えば、
・ローストモルト(黒ビールの苦味)
・ポリフェノール
・アルコールのドライ感
なども、苦味として感じられる要素になります。
つまり、
IBUはあくまでホップ由来の苦味の指標にすぎない
ということです。
味覚の影響
さらに重要なのが、人間側の要因です。
同じビールを飲んでも、
・苦く感じる人
・そうでもない人
がいます。
これは単なる気分ではなく、
・味覚の違い
・経験
・慣れ
などによって変わります。
つまり、
苦味は“ビール”だけで決まるものではなく、“人”によっても変わる
のです。
このシリーズで「苦味」を深掘りする理由
ここまで見てきたように、ビールの苦味は
・IBUという数値
・原料としてのホップ
・他の要素とのバランス
・人間の味覚
といった複数の要素が重なって成り立っています。
そして、この先にはさらに面白い世界があります。
例えば、
・人はなぜ苦味を感じるのか
・なぜ苦味を嫌うのか
・なぜ大人になると苦味を好きになるのか
ビールをきっかけに考えると、
「人間の味覚」そのものにたどり着きます。
このシリーズでは、ビールの枠を少し超えて、
“苦味”という感覚そのもの
を順番に整理していきます。
ビール好きとして思うこと
「ビールが苦い」
クラフトビールを飲み始めた今なら、そう思います。
正確に言うなら、「苦いビールもある」というところかな、と思います。
クラフトビールを飲む前は、どこかで
「ビールは美味しいもの」「生ビールは美味しいもの」
というイメージを持っていたように思います。
知人に「ビールって苦いよね」と言われたときも、
「そんなことないよ」と言いながら飲んでいました。
クラフトビールを飲み始めて、さまざまなスタイルや種類のビールに触れる中で、いろいろな「苦いビール」や「苦さ」に出会いました。
例えば、
・IPAに代表されるホップの苦さ
・スタウトなどの焙煎由来の苦さ
・日本のラガー(ピルスナー)特有の苦さ
などです。
多種多様なビールを飲む中で、「苦いビールが好き」という人にも出会いました。
「ガツンと来るビールがいい」
そう教えてくれた人もいます。
「えっ、ガツンと来る苦さって何なんだろう?」
そんなふうに思ったこともありました。
苦さには種類があり、さらに人によって感じ方も違う。
そして、それぞれの表現の仕方も違う。
そう考えると、「苦さ」というものは、思っていた以上に奥が深いものなのかもしれません。
そもそもの「ビールとしての苦さ」に加えて、「苦さの感じ方」にも踏み込んで、この感覚を整理してみたい。
そう思い、この記事を書くことにしました。
正直に言えば、僕は苦さの強いビールはあまり得意ではありません。
それでも、「この苦さがあるからこそ、このビールらしい」と感じるビールに、これまで何度も出会ってきました。
そしてふと考えると、コーヒーも同じです。
苦いとわかっていながら、なぜか飲みたくなる。
ある意味で少し不思議なこの「苦さ」という感覚。
このシリーズでは、そんな苦さについて、少しずつ深掘りしていきたいと思います。
まとめ
ビールの苦味は、「IBU」という数値である程度の目安を知ることができます。
しかし実際の体感としての苦味は、
・ホップ由来の苦味成分
・モルトやアルコールなどの影響
・香りや甘みとのバランス
・そして人間の味覚
といった複数の要素が重なって生まれています。
さらに、「苦い」と一言で言っても、その中にはさまざまな種類や質感の違いがあり、同じIBUのビールでも印象が大きく変わる理由になっています。
つまり、ビールの苦味は単純な数値ではなく、複雑な要素の組み合わせによって成り立っていると言えます。
次の記事では、ビールの苦味の中心となる「ホップ」に焦点を当て、どのように苦味が生まれているのかをもう少し詳しく整理していきます。
「ビールの苦味はどこから来るのか?」
その正体を、もう一段深く見ていきましょう。
▶ ビールの苦味はどこから来る?ホップの苦味成分とIBUの仕組みを解説
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■ 日本のビール市場を知る
▶ ビールの苦味を深掘りする|ホップ・味覚・文化まで全体像を整理
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